甘夏とエルダーフラワーのバターサンドの味の設計について
甘夏って、皮がおいしいんですよ。なので、皮ごと煮詰めた甘夏に、粗糖ときび砂糖を加えてコトコト煮込んで、濃ゆい琥珀色のマーマレードを作りました。自家製でっせ。
で、バタークリームには花のリキュール〈エルダーフラワー〉をきかせて、ほくほくしたカシューナッツを敷き、フレッシュグリーンカルダモンを練り込んだサブレでそっとはさんでみた。
カルダモンは、いわゆる「香りのスパイス」。お菓子に入れるには少し攻めた素材かもしれないけれど、実は柑橘とものすごく相性がいい。なぜかというと、カルダモンに含まれる主な香気成分は1,8-シネオール。ユーカリのようなスッとした清涼感があって、甘くて青っぽい香りも持っている。
対して、甘夏のような柑橘の香りを構成するのはリモネンやシトラール。どちらもトップノートが強くて、ふわっと香ってすぐ消える、香りの瞬発力はあるけど持久力がない。たとえるなら、すれ違いざまに目を合わせて、すぐに視線を逸らすような、そんな僕みたいなシャイな香り。
そこにカルダモンを添えると、香りに“芯”が通る。柑橘のあとに、少し遅れてやってくるのがカルダモンで、そのタイムラグが香りに奥行きをつくる。しかも面白いことに、カルダモンに含まれるリナロールやテルピネオールといった成分は、実は柑橘にも含まれていて、香りとして“話が通じる”構造になっている。違う香り同士なのに、ちゃんと同じ言語で会話ができる。これが相性の良さってやつなんだと思う。
それだけだと、ちょっと真面目すぎるかもしれないので、バタークリームにはエルダーフラワーのリキュールを少しだけ加えた。花の蜜みたいに軽やかで甘い香りがあって、口の中にふわっと残る後味がとにかく上品。柑橘とスパイスだけでは出せない、ほんの少しだけ“お菓子らしさ”を取り戻すための香り。リキュール自体は華やかすぎて扱いが難しいんだけど、バターのミルキーさと合わさると、まるで最初から一緒だったように馴染む。
今回、甘夏のジャムを使ったサンドにカルダモンを加えたのは、素材を際立たせるというより、香りの流れを整えたかったから。ふわっと香って、すぐに消えてしまう果実の輪郭を、カルダモンで少しだけ引き延ばす。そしてその輪郭のまわりに、エルダーフラワーで柔らかい光をにじませる。バターの中で、果実とスパイスと花が重なると、「これはジャムです」「これはバターです」というパーツ感が消えて、「なんだかすごく美味しい」という全体の印象に変わります。
この甘夏の味と天然酵母のサブレが組み合わさって、より一層美味しくなるんですね。
ブラウンナチュラルの美味しさの秘密
小麦に含まれる酵素(アミラーゼ)がでんぷんを糖に分解し、甘みの基礎をつくる
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発酵
酵母が糖を食べて炭酸ガスと香気成分を生成。生地の膨張と風味の土台に
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乳酸発酵(天然酵母の場合)
乳酸菌が有機酸やアミノ酸を生み出し、うま味や穏やかな酸味を与える
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焼成(メイラード反応)
糖とアミノ酸が反応して褐変。焼き色、香ばしさ、香りの立ち上がりが生まれる

甘夏とエルダーフラワーのバターサンドは東京工場でも販売しています。
みなさんのお越しをお待ちしています。
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